nepia 千のトイレプロジェクト2010

視察レポート 櫻井 陽子

今回、千のトイレプロジェクトCSRサポートスタッフとして始めて現地を訪れ、現地の方やユニセフ、現地NGOスタッフの方々などと言葉を交わし、淡く思い描いていたプロジェクトイメージの輪郭が日々はっきりとしたものに変化して行きました。

1日目、ユニセフ東ティモール事務所で、ユニセフの現地スタッフの方から、支援活動ではトイレ・水設備の建設だけではなく、衛生教育、衛生促進の啓蒙活動にも重点を置かれていると聞き、2日目以降の取材で、実際に東ティモールで現地の様子を確認してゆきました。実際には、衛生の理解度には個人差があり、長年人が持っていた意識や習慣を変えてゆく事の難しさ、伝え方の難しさ、継続し続ける事の難しさを現地スタッフの方から何度も聞きました。3日目・4日目に実施した‘うんち教室'では子どもたちの理解の度合いが判断できず難しさを自分自身でも実感しました。現地NGOスタッフの方はコミュニティ在住の看護師さんと日々話し合い、協力して村の人々に正しい排泄環境の知識を語り繋いでいるそうです。同じ村の信頼のおける人から耳に入る言葉の方が、外部から耳に入る言葉よりもずっと人々に浸透して行くのだそうです。

視察をスタートして3日目に訪れたエルメラ郡ククマテ村にて、私は看護師をされているオルガさんに実際のお話を伺いました。彼女は男性たちが発言している集会の中で立ち上がり、‘どうして家にお金をかけるようにトイレをもっと重要視しないのか!私達の健康は私達の手の中にあるのです!'と訴えていました。健康を守りたい人々の思いで集会場内が共感する村人の拍手で一杯となりました。集会後、私は日ごろ自分が日本で感じていた、子どもに対する親(大人)の排泄教育の重要性、排泄の話を日ごろから普通に子どもたちと明るく会話することの大切さを彼女と一緒に話しました。彼女は普段私が大人用紙おむつの仕事に携わっているお話をすると、コミュニティ内でも病気や高齢により自力での排泄が難しい人もいらっしゃる現状を話して下さいました。もちろん、紙おむつのような商品はありません。自力での排泄ができない時、やはり家族が排泄の手伝い、汚れた洋服を交換したりして協力し合っているそうです。これは日本でも東ティモールでも共通だと感じました。

2日目に訪れた支援先トイレ建設済みのファトリラウ村では、トイレの中に実際に入りインタビューをさせて頂きました。トイレは建設ルールにより家からほど近い場所にたてられており、きれいに使用されていました。トイレ横に設置した用水路を利用し、選択や水浴びをする事もあるという事で、トイレの前は比較的広めの作りとなっていて驚きました。そして臭いが気にならない事にも驚きました。日本の昔の汲み取り式トイレとは違い、排泄物はトイレの囲いより外側に2メートル程の穴を掘り、土や石で穴を崩れないよう丈夫な作りのスペースに糞尿は貯められる作りになっていました。

視察3日目の訪問先であるトイレが建設途中のククマテ村ではその作業風景を実際に現地の人がされている様子も直接見ることが出来ました。現地で活用できるものは現地で調達し、1つあたりのコストを抑える工夫も考えられていました。トイレを持ったご家族に以前の様子との違いを聞くと、どの家庭でも「子どもたちが健康的になった」「下痢をしなくなった」など、大変喜ばれていました。屋根が未完成であったり、屋根材の確保に悩んでいる家庭もありましたが、中には子どもたちの便の様子を確認し健康チェックを行っている家庭もありました。気温などの変化の関係からか、子ども達は雨季には下痢をしやすくなってしまうようです。インタビュー先は全部で4軒、どの家も家族で協力して水汲みを行い、掃除も全員でしているとのお話でした。衛生の意識の高さも感じ、理想的な状態が築かれつつある状態を実感しました。現在トイレ建設中の村や今後の支援先などでもこの村で頂いた『トイレができて本当によかった!』という家族の笑顔がまた拝見できれば素晴らしいことですし、子どもたちの尊い命や健康が守られることに活動が繋がっていることに感動しました。

4日目訪問先支援候補先エルメラ県アイトゥラ村では教師のマルガリータさんという女性にお話を聞くことができました。彼女もまたトイレの必要性を訴えられました。結局トイレを使えない状態で、外で用を足し、排泄物をふき取った葉などを生活の場に捨てる事で自分たちの健康を自らの手で害してしまっている現状を問題視されていました。現状雨季の時期しか溜まった水を活用できない現在、女性はトイレを汚し無駄な水を使用しなくても良いように生理期間中もわざわざ離れた場所まで用を足しに行くそうです。もし今後トイレができれば女性としてとても嬉しいことだと話してくれました。また、豚を飼っている家庭では豚の近くで排泄を済ませ、豚がその排泄物を食べその豚をまた人間が食して、という悪循環にも寄生虫の影響を懸念する声も聞きました。これも自分たちでまた自らの健康を脅かしている一例です。自ら命を脅かさない為にも、やはり大人たちの教育の重要性を感じました。

今回の視察期間中、自分たちの意見をしっかりと持った女性たちに沢山お会いできました。答え難い質問にも快く答えて下さいました。トイレ建設済みの村、建設前の村両方の現状を見ることが出来、私たちが普段当たり前に使用しているトイレや水設備の重要性を知ることができました。また、人々の生活の変化を直接聞きながら支援活動の大きな効果を知ることできました。千のトイレプロジェクトは東ティモールにトイレを建設する支援活動ですが、同時に命を守る為正しい排泄知識を現地の方に自分たち自身の財産にして頂く啓蒙活動にも繋がっていました。全ての国において、正しい知識や排泄環境確保は命を守る上で欠かせない事を再確認できました。ネピアは日々トイレや排泄に関わる製品を提供するメーカーです。排泄環境に関わるネピアスタッフの1人として、日々排泄環境の改善、ケアに取り組まれている介護職員の方々にもこの千のトイレプロジェクトの支援活動の重要性をご理解いただけると確信しています。そして日々たくさんの人の排泄環境の改善に今後どう携わって行けるのか、排泄環境をより一層深く考えて行きたいと思っています。

CSRサポートスタッフ制度について

王子ネピアは、2010年より、自社が取り組む社会貢献活動を社員一丸となって推進すべく、社内公募による「CSRサポートスタッフ制度」を新設しました。希望者から選ばれた一般社員が、プロジェクトの視察メンバーとして東ティモールを訪問。自分の目で見てきた現地の様子を、日本国内の「うんち教室」などの活動を通じて、伝えていきます。