東ティモール視察レポート

事前視察レポート

事前視察レポート

2日目の午前中の訪問先は、アイナロ県の保健局です。県保健局のヒラリヤオ・ラモス・シルバ局長より、最近のトリガリングの事例紹介がありました。

トリガリングは、トイレや水環境の重要性に住民自らが気づき、行動を起こすための大切なきっかけづくりです。ファシリテーターも住民であることが大きな意味を持ちます。同じ集落の人々に呼びかけ、この問題について話し合う機会をつくる。そんな成果が出始めている実例が紹介されました。しかしながら現実は、地域の21集落で、約5世帯に1世帯の家庭が水へアクセスできているに過ぎません。その理由をシルバ局長はこうまとめてくれました。

「これまで、アイナロ県には衛生という概念がありませんでした。衛生の大切さを、その意味も含めて伝えていくには、たいへんな時間がかかります。考えを押しつけるのではなく、小さな村・集落までゆっくりと、伝わっていくことが大切です。その手段としては、資材提供型の支援よりも、CLTS型の支援の方が有効な手段と考えています。」

今回の訪問で初めてのフィールドワークは、ゲルドゥとテルロラという2つの集落、2グループに分かれての視察です。実際に住民たちに、家の中を見せてもらう機会がありました。みなさん笑顔で案内してくれます。
1軒目に訪問した家には広大な敷地があり、母屋にはリビングと寝室、離れには台所がありました。背の高い縁台のような棚で、天日干しにされているのはコービー豆。挽きたての豆の香りが、どこからともなく漂ってきます。割れたり傷ついたりした豆は市場に出荷できないため、自家用として消費されていたのです。

家はほぼ手造り。凝った構造ではありませんが、皆さん大工職人のような腕前です。どの家も敷地が広く、きれいに片付いていましたが、トイレのない家もいくつかありました。

私たちが、驚いたのは、トイレなどの衛生環境が整っている家とそうでない家の差です。手造りながら、立派なトイレがある家には、川から水を引いた手洗い場もありました。居室とは距離を置き、敷地の隅の方に造られたトイレ。そこには衛生の概念とそれを保つための知識が感じられました。

一方、トイレのない家の排泄場所は、なんと集落の中心を流れる川の中。村の中心を走る道路から少し入ったところにある河川。乾季だったためか水量は少なく流れもゆるやかで、ところどころにプールのような場所があります。村民は、ここに来て、水に入り、水中で用を足すと言います。昔ながらの習慣なのでしょうが、下流では洗濯場などもあります。トイレで排泄する習慣だけでなく、衛生という概念そのものがないのでしょう。アイナロ県保健局のシルバ局長が聞いた話が、思い起こされました。

その後、2集落の生徒たちが集まるソロ小学校を訪問。トイレの状況などを視察しました。その劣悪な環境は、ここでも同じです。生徒数は600名に対し、トイレはわずか2カ所。そのうち1カ所は壊れていて使用できません。これだけの大人数に使えるトイレが1カ所だなんて、いくらトイレの必要性を教室で説いても、実践できるはずもありません。生徒に聞いてみると、トイレはたいてい混んでいるので、学校裏の山に入り用を足すと教えてくれました。教育の現場でさえこんな状態。このソロ村のように、山間部にある集落では、まだまだ水と衛生の問題は、深刻なのです。

back

next