nepia 千のトイレプロジェクト2010

進捗レポート

ユニセフ・東ティモール事務所の日本人インターン、塚越史枝さんからレポートが届きました。

塚越さんが今回視察した村は、千のトイレプロジェクトの支援対象地域である、エルメラ県ライラカン村です。今月から、「屋外排泄ゼロの村」を目指すCommunity Led Total Sanitation(CLTS)というアプローチが行われています。

「屋外排泄ゼロの村」を目指す村人たちの取り組み

CLTSというアプローチはバングラディッシュのカマール・カール氏が考案した方法で、これまでにもアジアやアフリカの多くの途上国で衛生環境の改善に成功しています。このアプローチによると、トイレの設置よりもまず先に、村人が自分たちの衛生環境の現状を振り返り、なぜ屋外排泄の習慣を改める必要があるのかに気づき、そのためにはどのような解決方法が必要なのか、トイレが村人の健康維持のためには必要なんだ!では自分達で作ろう!と決意し、村人が自ら行動変容させることが大切だとされています。

このプロジェクトでは、村人たちが自分たちで資材を手に入れ、助け合いながら各世帯にトイレを作っていきます。ユニセフは保健省や地元のNGOと協力して、様々な活動を通した村への啓発活動やトイレ設置のためのアドバイス等を行っています。ここ東ティモールでも、2009年12月からユニセフはこのアプローチでアイレウ県の数箇所で支援を開始し、実際に村人たちの屋外排泄の改善に非常に効果的であると確信し、今年8月から本格的にアイレウ県とエルメラ県でのプロジェクトを開始しました。

今回私がライラカン村で視察したのは、Triggering(トリガーリング=きっかけを与える)と呼ばれる村人への衛生環境改善の啓発活動の一つです。ここで、ユニセフとともにこのプロジェクトをサポートしている地元NGO2名のファシリテーター(促進者)が村人達と一緒に行った活動の流れを現地で撮影した写真とともに紹介させていただきたいと思います。

まず活動を始める前に、地元NGOスタッフがファシリテーターになり、今日の活動の目的を村人たちに説明します。「ライラカン村の衛生環境問題のことは村人の方が私達よりもよく知っている。今日は活動を通して私達にいろいろ教えてください」と伝えていたのが印象的でした。

活動の始めに村人たちが手をつなぎ、輪になってアイスブレイキングを行います。村人たちが積極的に意見を発言したり、互いに協力し合いながら活動を進められるような和やかな雰囲気作りをするためです。今日は参加者が協力し合って黒の長いビニールのたすきバトンゲームを行いました。参加者から笑顔がこぼれました。

次に白と赤の砂を使ってライラカン村のマッピング(地図作り)をしました。白の線がライラカン村の地図。赤は道路を示しています。この地図に、白のカードを使って各家族の代表が自分の家のある場所を確認していきました。その他、村内で水源(水ポンプや井戸など)がある場所、トイレがある場所も確認しました。

村人が普段屋外排泄をしている場所を黄色の砂を使って地図上に置きました。

マッピングの作業を熱心に観察する村人たち。女性や子どもたちも積極的に参加していました。

NGOスタッフが「今日屋外排泄をした人は?」と聞き、実際に現場へ村人たちと一緒に向かいました。現場から大便をスコップで集会所前まで運び、村人とともに屋外排泄が引き起こす問題について考える材料にしました。

ペットボトルに入ったきれいな水を数名の村人に飲んでもらいました。そのあと、髪の毛をハエの足にたとえて、NGOスタッフが屋外排泄した場合、野外に放置された大便がハエなどによってどのようにして村の水源汚染に影響を与えるか、また人々の健康に悪影響を与えるかを村人たちの前で実践しました。この活動のあと、NGOスタッフが使用したペットボトルの水を飲みたいと行った村人は勿論誰もいませんでした。

NGOスタッフの水と大便のデモンストレーションにより村人が次々と発言を始めました。村の少女(写真左)は、192人もの村人が一日に屋外排泄するとどれだけ大量の大便が放置され、土地汚染が起こるかを他の村人たちに説明しました。また、青年(写真右)は、屋外排泄が森を汚染し、いずれ雨となり、村の水源も汚染されて自分達の健康に悪影響を与える、屋外排泄は下痢やコレラを引き起こす悪習だと村人たちに説明し、是非村にトイレを!と訴えました。

若者たちの意見を聞いた村人たちは、村人の健康と衛生環境の改善のために、ライラカン村にトイレを作ることを決めました。29世帯のうち21世帯が自宅近くにトイレを作ると手を挙げて、NGOスタッフに申し出ました。この後ライラカン村では村人が自分達で計画を立て、材料を用意し、トイレ建設を開始させます。ユニセフと地元NGOはこの後も度々ライラカン村を訪問し、トイレ建設のサポートを続けます。

今回CLTSの村人たちの活動の視察を通し、NGOのスタッフたちと一緒に村人がマッピングや水と大便のデモンストレーションを体験し、この村が抱えている衛生環境ついて分析し、屋外排泄が自分達の健康にいかに悪影響をもたらしているかを実感していく様子を、身近で観察することができました。また、最後に村人たちがトイレを作りたい!と一斉に手を挙げた瞬間は、彼らのトイレ建設に対する熱い思いがこちらまで伝わってきました。

実はライラカン村にはすでに集会所の近くに2つ新しいトイレが設置されています。近くにネピア「千のトイレのプロジェクト」に参加している村があり、ライラカン村よりも先にこのCLTSのTriggeringの活動が行われ、すでにその村では村人たちがトイレ建設に熱心に取り組んでいるそうです。その噂を聞きつけたライラカン村の数名が、実は真似して作ったのがこの2つのトイレです。

トイレの隣には村人が竹で作った手洗い場もあります。私も滞在中にトイレを使用させてもらいましたが、木材や竹が使用されたトイレや手洗い場は村人の心がこもっていて、非常によくできており、大変感心しました。今後ライラカン村の人々によってさらに21の新しいトイレが設置されるのが私も楽しみです。

最後に、ネピア「千のトイレプロジェクト」に支援してくださっている日本の皆さんにお伝えしたいのは、東ティモール各地で行われているプロジェクトや村人たちの生活は勿論のこと、それを影で支えている政府、ユニセフ、地元NGOのスタッフの方々の日々の努力がここにあるということです。特にユニセフの水と衛生セクションのスタッフ達は現場のニーズに応えるために、頻繁に現場へ足を運び、地元NGOや村人たちと協力しながら毎日仕事に励んでいます。スタッフの中にはネパール人やインドネシア人といったインターナショナルスタッフもいますが、みな現地語のテトゥン語が上手で私のフィールド視察の取材中はいつもお世話になりました。ユニセフスタッフからも、ネピア「千のトイレプロジェクト」を通じた日本の皆さんからの支援は、東ティモールの公衆衛生の向上に非常に役立っており、大変感謝しています、これからも引き続き支援をお願いしますというメッセージもいただきました。

ユニセフオフィスの前で水と衛生セクションのスタッフたちと記念撮影。いつも明るく、フレンドリーで現場での仕事に熱心なスタッフたちです。ネピア「千のトイレプロジェクト」はこのスタッフたちによって東ティモールの村や学校の衛生環境の改善に役立てられています。これからも東ティモールでの活動にご理解とご支援を宜しくお願いします。